【pkmnBW:004】カラクサタウン

※妄想と捏造含むプレイ日記(小説風)です。台詞の捏造有り。
※作者は「ゆえ」の方、ただいまバッジ7つ目、しかしプレイ時間は80h超(おかしい)
※下記のステータスでプレイしています
 ・ソフトは「ブラック」
 ・主人公は「女の子」(名前は「ホワイト」表記、そのうち「トウコ」にするかも)
 ・最初の手持ちは「ツタージャ」
 ・主人公の一人称は「あたし」
 ・性格は勝気なお転婆さん。
 ・ストーリーは「N主♀」に寄り。
 ・すでに ED号泣 の予感がしている
 ・一話目はコレ。
 ・捏造セリフがあるよ!
 ・アホほど長い。
以上、平気な方はどうぞ。


 
***
『ねえホワイト! みんなで一緒に1番道路にふみだそうよ!』
『じゃ、行くよ!』
『せーの!! ……ああ! なんだろう! どきどきワクワクしちゃうね!』
 そうしてあたしたちは三人同時に踏み出して、あたしは今、カラクサタウンを目指している。
 カラクサタウンは、カノコタウンの隣の町だ。あたしも小さい頃から何度か、ママと一緒に出掛けたことがある。もちろん、自分のポケモンを持って、自分だけで歩くのは生まれて初めてだ。このあたりで出てくるポケモンたちには、それほど獰猛な子はいないけれど、いつどこから何が出てくるか分からない、そんなドキドキと、新しい世界がひらけたワクワクが、あたしの中で暴れまわっている。チェレンもベルも、逸る気持ちは抑えられないらしく、最初の一歩のあとすぐに、アララギ博士の待つカラクサタウンへと駆けていった。
 あたしもその後を追おうとは思ったのだけれども、考えなおして、ゆっくり歩いていくことにした。
 あたしたちが旅に出ようとしたとき、ママが言ったのだ。
『ポケモンだけじゃなくて、イッシュ地方のすてきなところ、いっぱいいっぱいみつけてステキな大人になるのよ!』
 ステキなオトナがどんな人なのか、あたしにはまだ、よく分からないけれど。確かに「イッシュ地方のすてきなところ」をたくさん見つけるのは、それ自体が「なんだかすてきなこと」のような気がした。旅の行程を駆け抜けたら、それはきっと、ちょっぴり薄味になってしまう。それは、なんだか、つまらない。
 あたしは、しばらくは帰ってこないだろう、カノコタウンの残り香を、胸いっぱいに吸い込んだ。
 甘い花の香り、優しい海からの風、のびのびと育っている草木。いつかあたしはこれを、「懐かしい」なんて思うのかもしれない。
「……ツタージャ、あんたも味わっときなさいよ。しばらくきっと戻ってこないもの」
 あたしは呟いて、ツタージャをボールの外に出した。
 彼(アララギ博士によれば、この子は男の子らしいので)はしばらくきょろきょろと、遠のいていくカノコタウンを眺めていたけれど、やがて、あたしと同じように、胸をそらして深呼吸した。
「ね、いい香りでしょ。あたしたちの始まりの香りだよ。覚えとこうね、ツタージャ」
 もちろん、そう言いたげにツタージャは頷いて、あたしの肩によじ登ってきた。
「ちょ、う、わ、おも! 重い! ツタージャ重いよ!!」
「ツタっ」
「ツタ、じゃない! おーりーてー!」
「ツターッ」
「った! ぎゃああ、こら髪の毛引っ張ったらダメ! 痛いッ!」
 ……なんせ、ツタージャは8キロ近くあるのだ。チェレンのポカブよりは軽いけれど、ベルのミジュマルよりはだいぶ重い。
「ツタージャ! あたしに乗っかるのは禁止! あんたけっこー重いんだからね! ……次の町に着く前にあたしがバテちゃうじゃない」
「ツタ」
「いや、不満げにされても無理なもんは無理なの!」
「ツター」
「いやいやボイコットされても困るから! ……ああもう!」
 不満げに地面から動かないツタージャを、あたしは仕方なく持ち上げた。
 ずっしり重くて、ため息が漏れてしまう。それなのにツタージャは満足気で、ちょっぴり腹が立った。二の腕のダイエットにはいいかもしれないけど、このままじゃ冗談抜きに、あたしがバテそうだ。このくらいの子供をだっこして歩けるお母さんたちは、ほんとうに凄いと思う。
「はー……今日だけ、だかんね」
「ツタ!」
 ほんとにバテてしまう前に、あたしはカラクサタウンを目指すことにした。ゆっくり行きたかったのにちょっぴり、いやかなり残念だ。まあ、ツタージャは偉そうにふんぞり返りながら、草むらから飛び出してくるポケモンたちを、軽やかに追い払ってくれたから、許してあげることにしよう。

 あたしがカラクサタウンについたのは、太陽が傾き始め、空がぼんやり、金色に変わる頃だった。カラクサタウンは、丘ひとつが町になっていて、高いところに上がってみると、とても景色がいい。ちょっと離れたカノコタウンが、ほんのちょっぴりだけ見える。
『町に着いたら、いろんな人に話を聞きなさいな』
 そういった、ママの言葉に従って、あたしはあちこちのおうちでいろいろなことを教えてもらった。
 カラクサの話をしてくれる人もいたし、ポケモンとの付き合い方を説いてくれたおじいさんもいたし、ポケモンどころか、男女の考え方の違いをとうとうと語ってくれた新婚さんもいた。みんながみんな、あたしにいろいろなことを教えてくれる。あたしの知らない話、知っているけれど、久々に聞いた話。
 なかでも、「いろんな考え方があって、だからこそ人は争う。だけど、いろいろな考え方があるからこそ、世界は広がる」そういった新婚の奥さんの話は、あたしの心に深く沁みた。あたしとベル、チェレンも、まさにそんな感じで、ずっとやってきたのだ。あたしたち三人、全然違う性格だからこそ、喧嘩もしたし、新しい考え方にもたくさん出会えた。それが、3人からもっとずっとたくさんに増えたら、それはもう、喧嘩だって毎日だろう。でも、新しい考え方に出会える確率も、もっとずっと高くなるはずだ。
 それからもう一つ、妙に記憶に残っているのは、あたしも知っている、イッシュ建国のお伽話を話してくれた坊やの話だ。
『せかいをみちびくえいゆうのもと、そのぽけもんすがたをあらわし、えいゆうのたすけとなる……イッシュちほうにつたわるおはなしだよ!』
 そういえばちびのころ、あたしもママからその話を聞いたなあ、なんて思い出して、あたしは思わず坊やの頭を撫でてみた。きっとこの子ももう何年かしたら、あたしみたいに、最初の子と出会って、旅に出るのだろう。
 そんなことをしていたら、辺りはすっかり暗くなっていた。
 遊びすぎちゃった、あたしは慌てて、ポケモンセンターの前に戻った。ツタージャもなんだか眠そうにしている。ボールに戻るかと聞いたら、大人しく戻ってくれたから、やっぱり眠かったのかもしれない。
 センター前の広場にはもう、ポケモンセンターでの用を終えたチェレンがいて、ポケモンセンターには、ちょっぴり待ちくたびれた体のアララギ博士とベルがいた。ツタージャを抱えて、結構急いだはずのあたしよりベルの方がずいぶん早かったことに、あたしはちょっぴり衝撃を受けながら、アララギ博士から、トレーナーの心得を聞いた。
 買い物に悩むベルをおいて、ポケモンセンターを出ると、空には大きな星がまたたいていた。
 今日はカラクサで一泊だなあ、そう考えていたら、チェレンが呼ぶ声がした。
「ホワイト、こっちに来なよ」
「あれっ、チェレン、まだいたんだ」
「うん。何か始まるみたいだ」
「何か?」
 チェレンはさっきまで自分がいた、広場を指さした。そこにはなんだか妙に時代錯誤な服装をした集団が、ずらりと並んで立っている。よく見れば、広場を行き交う人達も、不思議そうに足を止めていた。へんてこな服装の集団の前に、ちょっとした人だかりができている。……なにあれ?
「何??」
「さあ」
 チェレンに促され、あたしは集団の、端っこに並んでみた。
 ワクワク、とは違う、なんだか変なざわめきが、あたしのなかに生まれる。あんまり気持ちの良い感覚じゃない。それはどうやら、ポケットのツタージャも同じだったようで、彼はかたんかたん、ボールの中で不満そうに身体を揺すっていた。
「……いつ始まるの?」
「分からないけど……あ、変な男が出てきたよ。あいつがしゃべるんじゃないか」
 チェレンの言葉に、あたしは前を向く。なんだか大きな目玉のデザインされた、ケープのようなマントのような、妙に古めかしいデザインの衣を来た、うす緑の髪の男が、微笑を浮かべて立っていた。なんだか、大きな蛾のようで、あたしはうっと息を飲む。
「ワタクシの名前は、ゲーチス。プラズマ団のゲーチスです」
 男が口を開いた。低くて聞きやすい、滑らかな声だ。この人の声は「話すための声」なんだな。あたしはなんとなく、そう感じた。これは、人に向かって話すことに慣れている人の声だ。
「今日、みなさんに、お話するのは、ポケモン解放についてです」
 ざわ、広場がざわめいた。
 あたしは意味がわからなくて、首を傾げる。チェレンの眉間に、子供らしくないシワが寄った。
「われわれ人間は、ポケモンとともに暮らしてきました。お互いを求め合い必要としあうパートナー……そう思っておられる方が、多いでしょう。ですが、本当にそうなのでしょうか? われわれ人間が、そう思い込んでいるだけ……そんなふうに考えたことは、ありませんか?」
 ざわめきが大きくなった。チェレンの眉間のシワも、うんと深くなる。
 あたしの胸もざわめく。
「トレーナーはポケモンに、好き勝手命令している……仕事のパートナーとしてもこきつかっている……そんなことはないと、だれがはっきりと言い切れるのでしょうか」
 そりゃあ、はっきりそんなこと、誰にだって言い切れるわけがない。
 あたしたちはトレーナーで、ポケモンの考えていることがなんとなくわかるけれども、「何をしゃべっているのか」までは分からないからだ。ポケモンが「楽しそう」なのを「喜んでいる」と見て、「しょげている」のを「悲しそう」って判断する。だけどもしかしたら本当は、「ただ機嫌がいい」だけかもしれないし、「悲しいんじゃなくて、具合が悪い」のかもしれない。
 そんなこと、分かりようがないじゃない。
「いいですか、みなさん。ポケモンは、人間とは異なり、未知の可能性を秘めた生き物なのです。われわれが、学ぶべきところを数多く持つ存在なのです。そんなポケモンたちに対し、ワタクシたち人間がすべきことは、なんでしょうか」
『わからんよ』
『どきっ』
『そんなまさか』
『無理だ』
『解放?』
 集まった人々は男の言葉に反応してつぶやきを漏らす。
 あたしはポケットの中のボールを胸元に引き寄せて、手のひらで握りしめた。
「そうです! ポケモンを解放することです!!」
 ざわめきに酔ったように、男の声が大きくなった。よく通る声が伸び、ポケモンセンターの壁に反射して、不気味なエコーとなって、夕暮れの街に満ちていく。
「そうしてこそ、人間とポケモンははじめて対等になれるのです!!」
 対等? 人とポケモンが別々に暮らすことが、対等なのだろうか?
 いま、あたしたちは手をとりあって、暮らしている。これは「対等じゃない」っていうの?
 あたしたちはポケモンを愛して、ポケモンは力を貸してくれる。これは、「あたしたちの一方的な強要」だって、この人達は言っているの?
 あたしはボールをきつく握って、ちらり、隣のチェレンに目をやった。
 チェレンは黒い瞳をまっすぐ前に向けて、ゲーチスとやらを睨んでいる。『ぼくはそんなことみとめない』そう言っているみたいで、あたしはすこしだけほっとした。
「みなさん、ポケモンと、正しく付き合うためにどうすべきか、よく考えてください。というところで、ワタクシ、ゲーチスの話を終わらせていただきます。ご清聴、感謝いたします」
 あたしがぐるぐると考えているうちに、気がつけば、男と不思議な集団は、姿を消していた。

「……どういうことだろ」
「ひとつの考え方だろ。気にする必要なんてない」
 人の去った広場に残り、あたしとチェレンはなんとなく立っていた。
「言っている言葉の意味はわかるけど、ぼくには到底受け入れがたいね」
「うん、あたしもだよ」
 あたしは胸元のモンスターボールを自分の目線にもちあげた。ツタージャの、琥珀色の大きな瞳が透けて見える。知り合ったばかりのこの子と別れるなんて、いくらなんでも受け入れられるわけがない。だけどこの子はボールの中で、不満だったりするのだろうか。
 あたしの不安を感じたのか、ツタージャはぺちぺちとボールの内壁を叩いて、小さく鳴いた。
 気にするな、とでもいいたいのだろうか。
 出してくれよと、言いたいのだろうか。
 ああ、あたしにポケモンの言葉が分かればいいのに。
「キミのポケモン、今、話していたよね……」
 突然、あたしの背に、そんな声が飛んできた。あたしはびっくりして振り返る。
 背の高い男の人が、街灯の下に立っていた。黒いキャップを目深にかぶっていて、表情は伺えない。長い緑色の紙を後ろでひとつにまとめていて、それはポケモンのしっぽのように、ふわふわと揺れていた。
 あたしより先にそちらを向いていたチェレンが、あたしに代わって返事をする。
「……ずいぶんと早口なんだな。それに、ポケモンが、話した……だって? おかしなことをいうね」
 煽るようなチェレンの言葉に、あたしはちょっぴりハラハラした。チェレンは自分を下にみている人に対して、ちょっと好戦的なところがある。背の高い男性の、こちらを思いやる素振りのない早口に、「見下された」ように感じたのかもしれない。けれども、声を駆けてきた人はチェレンの言葉を気にした風もなく、不思議な言葉を更に続けた。
「ああ、話しているよ。そうか、キミたちにも、聞こえないのか……。かわいそうに」
 あたしはカチンとした。ポケモンの声が聞こえればいいのに、そう悩んだ矢先に、聞こえるだなんて冗談もほどほどにしてほしい。「どういうこと、あなたはポケモンの声が聞こえるっていうわけ?」そう言おうとしたあたしより一歩早く、チェレンはまた何か、口をきこうとした。
 その瞬間。
 そのひとは、顔を上げた。端正な顔立ちが灯りに照らされて、あらわになる。
 そうして彼は、あたしの目を、真っ直ぐに覗き込んだ。
 あたしの目と、その人の目が、真正面からぶつかる。
 整った顔の真ん中に、淡いソーダ水をほんのちょっぴり銀色にしたような、不思議な色の瞳。まるで宝石みたいでとてもとてもきれいだけれど、触ったら壊れてしまう、薄いガラスでできたおもちゃみたいだ。
 彼は長いまつげの向こうで、ぱちぱちと瞬きをしてあたしの瞳をしつこいくらいにじっとりと見つめた。なんだか自分の内側を覗かれているようで、気持ちが悪い。だけれど、そのままにされるのも悔しくて、あたしはギッと相手の瞳を睨み返した。
 ――光のない、目。
 睨み返した淡い銀の瞳は陰って、そこには何の光もなかった。
 あたしはずいぶん前にテレビで見た、一切の淀みがない、ただひたすらに澄んだ湖を思い出した。地球のどこかにあるその湖は、底が見えそうなほどに透明で、水が美しすぎるがゆえに、生物が存在することができないのだという。美しくて明るいのに、そこにはなにもないのだ。
 あたしはほんのすこし後ずさる。なにこれ、こわい。この人の目、こわい。
 光みたいな色をしているのに、どうして、こんなに暗いの。
 だけどあたしは、目を離すことが、できなかった。
 闇の向こうに滲んでいるのが、「哀しみ」のような気が、してしまったから。
 とっさにあたしは、ポケットのボールを握り締めた。ボールの中のツタージャが、あたしのことをボール越しに、ぺちぺちと叩く。しっかりしろ、って言われた気がして、あたしはハッと我に返った。
「かわいそうって、あたしのこと?」
「……ボクの名前はN」
「ちょっ……」
「……ホワイト! ……ボクはチェレン、こちらはホワイト。頼まれて、ポケモン図鑑を完成させるための旅にでたところだ」
 思わずカッとなったあたしを宥めるように、チェレンがあたしの前に手を出した。あたしが荒れると、チェレンは逆に冷静になる。それはいつものことなので、あたしはぐっと言葉を飲み込んで、チェレンの半分後ろに隠れた。
 エヌ? エヌってアルファベットの、「N」? それって、名前なの? そんなの、イニシャルとか、コードネームじゃないの。
 あたしはチェレン越しに「N」を睨みつけたけれど、彼はうっすら笑っただけだった。
「もっともぼくの最終目標は、チャンピオン、だけど」
「ポケモン図鑑ね……そのために幾多のポケモンを、モンスターボールに、閉じ込めるんだ」
 チェレンの「チャンピオン」発言をスルーして、「N」はそう呟いた。なぜだか、あたしの方を向いて。それは、思いのほか悲しそうに響いて、あたしはしかめていた顔を、もとに戻す。
「ボクもトレーナーだが、いつも疑問でしかたがない。ポケモンは、それで、シアワセなのか、って」
 この人も、さっきの人と似たような事を言うんだ。
 あたしは、自分のボールを、ぎゅっと握りしめた。そんなこと言われたって、あたしは困る。ボールに入れなければ、一緒に旅はできないし、そもそも一緒にいないと、旅なんてできない。それに、ボールの中にいることがどうなのかなんて、あたしには判断しようもない。ポケモンの幸せ? この人にはそれが分かるとでも言うのだろうか。あたしに、知り合ったばかりのツタージャたちと、別れろっていうのだろうか。そうして、家に帰れって?
 ――それに、どうして、話しかけたチェレンじゃなくって、あたしの方を向いてしゃべるのよ!
「そうだね、ホワイト、だったか」
 Nはうっすら笑った。名前をちゃんと聞き取られていたことに驚いて、あたしは思わず目を見開く。すると彼は、薄い笑みを浮かべたまま、あたしのほうに手を伸ばした。
「キミのポケモンの声を、もっと聴かせてもらおう!」
 何でよ!!
 あたしがそう叫ぶ前に、彼はモンスターボールを放り投げた。
 それに反応したように、あたしが指示するより早く、あたしの手の中のボールが弾ける。
 ひらり、ひるがえる美しい緑。目を射る、鮮やかな黄色。琥珀みたいな、大きな目。
 ちょっぴりナマイキな、あたしの、ツタージャ。
 ……あれ。なんとなくだけど、怒って、る?
 威嚇するように、ツタージャはNを睨んでる。やっぱりなんだか怒っているみたい。
 Nが出してきたのは、このあたりにはよくいるポケモン、「チョロネコ」だった。ついさっき、あたしも女の子のチョロネコと仲良くなって(なんだかあたしのツタージャと、気があったみたい)、ついてきてもらったばかりだから、その特性や性質は知っている。ひとのものを遊びで持ってきてしまういたずらっ子で「しょうわるポケモン」なんて言われてしまっている、だけどとってもカワイイ猫ポケモンだ。
 ――だけどバトルは、なぜだか怒りに燃えているツタージャの一撃で、あっけなく片がついてしまった。
『そんなことを言う、ポケモンが、いるのか……?!』
 なんて、勝負の間、Nは驚いていたけれど、いったい何のことなのか、あたしには分からない。
 ともかくも、興奮が静まってみれば、場にはくてっと伸びてしまったチョロネコと、ちっちゃな身体で仁王立ちするあたしのツタージャが残っていた。
「ツタージャ、お疲れ!」
「ツタッ」
 あたしの胸に全力で飛び込んでくるツタージャを抱きとめて、あたしはNに視線を向けた。
 彼は悲しそうな、本当に悲しそうな瞳で、弱ったチョロネコを、まるで赤ちゃんにするように、そっと優しく撫でていた。その瞳はこの上もなく慈愛に満ちていた。あたしはそんな感じの目に、覚えがあった。――無茶をして怪我をしたあたしを、泣きながら抱きしめる、あたしのママの、目だ。安堵と、言うことを聞かないあたしへの憤りと……手が届かなかった自分の不甲斐なさと、傷つけたものへの、怒り。
「モンスターボールに閉じ込められているかぎり……ポケモンは、完全な、存在には、なれない」
 Nはチョロネコを抱え上げ、悲しそうな目のまま、そう言った。あたしは思わず、口を出す。
「だったら、トレーナーをやめたらいいじゃない! あんただって、ボールからチョロネコ出したでしょ」
 Nが、ゆっくりとこちらを向いた。その瞳に、初めて、微かな光が宿る。
 それは急激に力を増して、彼は眩しいほどの光をたたえた瞳で、はっきり、こう言った。
「ボクは、ポケモンというトモダチのため、世界を変えねばならない」
 ただ聞いたのなら、それは、狂人のセリフだったかもしれない。
 でもあたしはその直前に、陰った暗い瞳に、火が灯るのを見たのだ。
 ――この人、本気で、そう思ってるんだ。

「……おかしなヤツ」
 無言で去っていく「N」の背を見送ったチェレンが、ぼそっと呟いた。
 彼はあたしに、気にするな、と『ポケモンと人はお互い助け合ってる』と、そうはっきり言って、あたしの背中をポンと叩いた。そうだ。少なくても、あたしはツタージャに助けてもらった。そうだ、ツタージャをだっこしたりもしたけれど、ツタージャの頑張りに比べたら、そのくらい、どうってことないじゃないの。
「そ、だね」
「……ぼくは先に行く。キミもジムリーダーとどんどん戦いなよ」
 チェレンは迷いのない瞳でそう言って、次の街を目指すから、と去っていった。
 そうだ、あたしは、少なくてもこのこと一緒にいたいもの。
 別れ別れになるなんてまだ考えたくもないし、ツタージャだって、少なくとも、あたしといるのを嫌がってはいない。バラバラになる必要なんて、いまのところ、ない、んだ。
 ――だけど、ツタージャの、しあわせって?
 あたしは、チェレンと、「N」の去っていった道の先を黙って見つめる。
 ぎゅっと、ツタージャを抱きしめた。ツタージャの頭を、さっきの「N」の真似をして、優しく優しく撫でてみる。ツタージャは気持ちがよさそうにあたしに頭を摺り寄せて、小さく鳴いて、目を閉じた。
 あたしは、ちょっとだけそれに安心して、それから、あの人の瞳を思い出す。
 ――あの人と、またどこかで、会ってしまうんじゃないか。
 そんな予感がどうしても、あたしの頭を離れなかった。
 

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