宇宙のまたたき

あくまこちゃん

 その人の白い軌跡が踊る黒板を、アクロマは肩を落として眺めていた。
 それは、お世辞にもキレイとは呼べない字なのである。女性の字というものはもう少し整って、麗しいものなのではないか。そんな、青年の幼稚な思い込みなど鼻で笑うような、書いた本人以外に一体誰が読めるのだ、という文字なのである。書いた本人は教卓の上に腰を下ろして、疲れただの飽きただのなんだのといって、紙パックのアップルジュースをちゅーちゅーとすすっている。
 そんな人の書いた汚らしい文字。だというのに、だ。そこに踊るミミズののたくったような図、式、そして文字は、アクロマを完璧に打ちのめしたのである。

 乱れ文字、それこそは、だらだらとジュースをすすっている女性が書き記した、彼女が今取り組んでいるという研究を「カンタンに」(と彼女は言った)説明した図式なのであった。確かに、それほどむずかしい式や機構を用いたものではない。新入生には難しかろうが、彼や彼女の属する研究室のメンバーなら誰でも理解の及ぶような内容で、人より鋭敏な頭脳をもって生まれ、それを伸ばし活かすことに人生を捧げてきたアクロマにとっては、理解できないわけのないものだった。
 だがしかし、その発想たるや、今のアクロマではどれほど机にかじりつこうが出てくる可能性もないものであったのである。

 この白い文字群、閃光のようなひらめきの渦は、星空のような青い瞳の奥に鎮座しているらしい彼女の頭脳の鱗片だった。あの悪筆は、豊かな湧水のように溢れ出るひらめきに、指先が追いつかないでいるせいに他ならないのだ。

 人はこれこそを天才と呼ぶのかと彼はおそれ、呆れ、腹を立て、そしてじっと、机の上でぼんやりと図式を見上げる女性に目をやった。彼女はぱちくりと瞳を瞬かせ、それからふんわり瞳を細めて、くりんと首をかしげる。青黒く光る、絹のような黒髪が揺れる。

「わかんなかった?」
「いいえ」
「さすがね!」
「誰でもわかるでしょう……貴女の説明があれば」
「そう? んじゃ来週の発表はカンペキね!」
「……ただ、この文字では誰も読めないのではと思いますが」
「…………打ち文字にするから大丈夫」
「そういう問題でしょうか」
「そういう問題よぉ」

 ニコニコと、ばかみたいに笑う人を睨みつけ、アクロマは深く息をついた。

「ね、もちろん手伝ってくれるよね?」
「……仕方がありませんね」

 この人の知恵を吸収するためならなんでもしてやる。そう決意した青年は先輩から目をそらすと、もう一度黒板に目をやった。
 そしてその知性の本流にもう一度、肩を落とし、強く睨んだ。

即興小説なんたらかんたらで15分で書いたやつ。
飽きることなく幾つか書けたら、ちょっと直してどっかに上げ直します。

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